The cat of promontory
岬の猫
トップニャンコムネット文学館 > 岬の猫
次頁
岬の猫
 私は人里離れた岬に住む売れない物書きです。いえ、本当は作家とは言えません。なぜなら私の書いたものは一度も世の中に出たことはないからです。ですが、これだけはなんとしても書いておかなければならないことがあります。それはある旅のお坊さんから聞かせていただいた話です。これを書くことはその方との約束でもあるのです。
 私が旅の僧とお会いしたのは、この岬に移り住んだ翌年の五月初めのことでした。その日、朝の散歩から帰った私は、私の住み家となっている建物の裏手に人が倒れているのに気が付きました。近付いてみると、その身形みなりから一見して仏門にある方のようです。私は傍に寄って声をかけました。何度か声をかけているうちにその方は正気付き閉じていた目を開きました。私が「大丈夫ですか」と尋ねると旅の僧はかすかに頷きました。私はお坊さんに肩を貸し建物の中に入っていただきました。お話をお聞きすると、三日も食事を摂
1
前頁
Nyancom.net トップページへ